新軍事ドラマ:「中隊本部」
どこにでもある(?)陸上自衛隊普通科中隊の日常を描く
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残る桜も散る桜:その4(完)
快晴の空の下、駐屯地グランドに第1種礼装で整列した中隊一同
壇上に立つのは連隊長から紹介を受けた中隊長だ
「…は誠実な人格と高い見識を持ってよく上司の意図を体し、中隊団結の核心として…」
連隊長の紹介と、師団長から授与された3級賞詞の代録が終わり、いよいよ中隊長の最後の言葉となった
マイクの前に立つ中隊長に中隊一同の視線が集中する

中隊長はしばらく言葉を発さず、皆の顔をゆっくりと見回した。そして正面を見ながらおもむろに口を開いた
「私は、本日付を持って第1中隊の中隊長を下番する。2年以上にわたる長い期間、よくぞ付いてきてくれた…」
大小はあれど、一人一人の顔を見てそれぞれの思い出がよみがえる
日常業務、訓練、検閲、競技会等から災害派遣まで…それぞれの場で任務を果たそうとする部下たちの姿を思い出し、何やら熱いものがこみ上げてくる
「…次の職務である地方連絡部勤務に於いても全力を尽くし、諸官らの後輩を一人でも多く入隊させて戦力化に貢献できるよう…」
もう年齢的にもポスト的にも前線に出ることはないだろう、ならば後方で全力を尽くし、彼らのためにできるだけのことをしよう…と皆の顔を見て改めて決意を固くする
「…来年度は邦人保護派遣の待機部隊に指定されているということもあり、ますます厳しい任務が待ち受けていると思う。だが、諸君の能力を持ってすればどのような任務も完遂できると固く信じている。自信を持って、全力で当たってもらいたい。これを最後の要望事項とする」
言いたいことは全て言った。言葉を切ってしっかりと隊員たちを見据え、腹に力を込めて最後の一言を口に出した
「これをもって、当中隊の指揮を解く!以上」
中隊一同の敬礼を受け、中隊長はグランドから去っていった

昼休みが終わり、13時の課業開始時間になった。連隊の全隊員が正門からメイン道路に沿って2本の列を作って並んでいる
スピーカーから流れてくるのは連隊歌だ。その曲に合わせて転出者が一列になって隊員たちの間を抜けていく
ところどころで自分の中隊の隊員に捕まり宙に舞う者、大きな花束を受け取る者、握手する者、写真撮影に応じる者…となかなか列は進まない
中隊長も第1中隊の面々が並んでいるところまでやってきた
「お疲れっした!」「お世話になりました!」次々と握手を求める隊員たちであっという間に通路がふさがってしまう
「おぉ、ガンバレよ、お前も…」受け答えをしているウチに、いつの間にか若い連中に周りをぐるりと囲まれていることに気づいた中隊長
「胴上げすんぞ~!」誰かの声で一気に持ち上げられた
「お、おい…胴上げはいいって…」と言ったところで誰も聞いていない
「行くぞ~ワッショイ!」のかけ声とともに中隊長の体は宙に舞った
目の前に広がる青空を見て(この中隊の中隊長をやらせて貰って、本当によかった…!)と少し涙する中隊長であった

「それでは僭越ながら、わたくし第1科長が万歳三唱の音頭を取らせて頂きます。皆様、声高々にご唱和願います」
長い見送りの列を通過して正門前に整列した転属者の前に1科長が出てきて、マイクスタンドの前に立った
「転属者の皆様、勤務の長短はあれお疲れ様でした!『散る桜、残る桜も散る桜』と申します。我々もまた出ることもあるでしょうし、またどこかでお会いすることでしょう…」
ひとしきり話し終えたところで1科長は一歩後ろに下がった
「それでは転属者の今後ますますのご発展とご多幸を祈念して…」スッと一息吸い込み、一気に両手を振り上げた
「ばんざ~い!ばんざ~い!ばんざ~い!」駐屯地全隊員の万歳を受けて、転属者たちは新たな任地へと去っていった

ひとしきり行事を終えて帰ってきた中隊の面々
「さて…」壁に立てかけてあった中隊長要望事項が入った額を下ろす。そして中に入ってた紙をあっさり破り捨てた
「新しい中隊長はどんな人かね~?」「若いらしいけど大丈夫かな?」
あっさりと気持ちを切り替える中隊の面々であった
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テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

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